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闇と静寂に包まれた自室、時計の針が奏でる規則正しい音がやけに耳に障った。文字盤を見ると2時を過ぎた頃だった。つい今まで眠っていたというのに、一度覚醒してしまえばまた眠りにつくのは難しい。
閉じた瞼の裏に移る絵が歪む。目眩に似た気持ち悪さを覚えてベッドから身体を起こした。なんだか身体が熱い。軽い頭痛もする。もしかしたら熱があるのかもしれない。
水を取りに台所へ行こうと襖を開けると、薄ぼんやりと明かりがついていた。食卓の椅子に座った母の背中が見え、一瞬だけ部屋から出るのを躊躇った。どうやら母はテーブルに伏して寝ているようで、起こさないようそっと近づいた。こんな所で眠ってしまうなんて何をしていたのだろうと思い、机上を覗き込むと臙脂色のフォルダが置いてあった。
手に取って開いてみると、ブルーバックで正装に身を包んだ男の人の写真だった。
心臓がドクンと大きく鳴った。
お見合い写真なんて、テレビドラマくらいでしか見たことなかった。女手一つで家計を切り盛りしてきた母に、お見合いの話があったなんて知らなかった。
結婚、するのかな。
両親は学生結婚だったと聞いたことがある。浮気性の父と離婚してから母に浮いた話はないと思っていたのだが、息子に知られぬよう夜中にこうして一人で悩んでいたのか。
タオルケットを一つ持ってくると母の背中にかける。
もしも、母がお見合いを受け結婚することになったら、ちゃんと受け入れることができるだろうか。
「アマネ、俺……、お前が好きだ」
どうしてこんな時に思い出すのだろう。母の見合い写真を見たせいだろうか。
色々なことが頭の中で渦を巻く。それを振り払うように冷蔵庫から水のペットボトルを取ると、そのまま部屋へと戻った。
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