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一軒家の表札には『皆木雄介 千里 健太』と書かれている。健太の名前が残されたままな辺り、この家も10年前から時が止まったままなのかもしれない。
「さあ、どうぞ。中に入って」
墓地で、ここじゃアレだから、と健太の母親に促されるまま家へと招かれ、俺と詠美ちゃんはリビングのソファーに腰掛けた。
目の前のローテーブルに麦茶の入ったコップが置かれ、一口飲むとその冷たさがとても身に染みる。
「おばさん、さっき言ってた『謝りたかった』ってどういうこと?」
気まずい雰囲気の中で詠美ちゃんが切り出した。その問いに千里さんは俯き気味に口を開いた。
「……どこから、話したらいいかしら」
お盆を抱えたまま、彼女は向かいのソファーに座った。
「健太は、子供が出来にくい身体だった私が、とても待ち望んで出来たたった一人の子だったの。だから葬儀の日に、健太の遺骨を前に『これが、ケンちゃん?』って聞いてきた周くんが、どうしようもないくらい憎くて、強く当たってしまったの……」
「そう、なんですね」
彼女の言葉の真意を知り、何も知らずに責め立ててしまったことを悪いと思った。
「アマネはこの10年、ずっと事故の原因は自分にあると思っているみたいなんです。川に流されたのはアイツのせいじゃない。だけど、『橋の向こうへいこう』と誘ったのは自分だから、自分が殺したようなものだ、なんて……」
その言葉を聞いた彼女はおもむろに立ち上がって2階へと上がり、間もなくしてリビングへと戻ってきた。手にしていた紙を俺の前へと差し出してきた。
「それが、あの日の真実よ」
筒状に丸められた紙を広げると、クレヨンの拙い文字で書かれた地図だった。
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