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目が覚めた時、部屋も外も真っ暗だった。
僕は病院のベッドの上にいた。動こうとすると足がジクジクして痛かったけど泣く程でもない。
隣にいる母さんは僕の手をぎゅっと握ったまま眠っているみたいだ。手を握り返すと母さんは直ぐに起きて僕に抱きついてきた。
「周……、周!! 良かった起きて……!!」
母さんが何で泣いてるのか僕には分からなかった。
「かあ、さん。僕、なんで病院にいるの……?」
「覚えて、ないの?」
母さんの質問に僕は首を横に振った。
「そう……」
何で僕は病院にいるんだろう。よく見ると点滴の管が僕の腕に繋がってる。僕元気なのに、何でだろう。
母さんが看護師さんを呼ぶと、直ぐにお医者さんも一緒に部屋に来た。何だか色々診察された。
「周くん、自分のこと分かるかい?」
優しそうなおじさん先生にそう聞かれて、
「分かるよ。僕の名前は芳野周、6才だよ」
そう答えると、うん、と言ってまた色々質問してきた。
「今日あった事、覚えてる?」
「今日? ……うーん?」
「一緒にいた子とか」
「一緒? ……あっ! ケンちゃんと一緒にね、朝泳いだよ! それから、ケンちゃん家でお蕎麦食べたの!」
「へえ、それは良かったね。それから何をしたんだい?」
「それからねー、……うーんと、ケンちゃんと虫取りしたの。絵日記に描こうねって。でも大っきい虫全然いなくて……、えーと……」
聞かれた通り、今日あったいろんなことを話した。だけどケンちゃんと虫取りしたところまでは覚えているのに、そこから先のことがよく思い出せない。
「思い出せないんだね?」
「うん……」
「そうかぁ」
先生は母さんに向き直って話し始めた。
「恐らく事故のショックでしょう。事故前の記憶の一部が欠落してるのだと思います。彼はまだ子供だ。無理に思い出させようとすれば、最悪心に深い傷を負いかねない。……健太くんのことも、受け入れられるかどうか」
「そう、ですね……」
「幸い、事故前後の記憶以外に障害は見られませんし、足も縫い目は残りますがすぐ塞がります。……健太くんのことを話すかどうかは、お母さんに」
「分かりました」
先生と看護師さんたちが部屋を出ていった。母さんが僕の横に座ると、何だか悲しそうな顔で話し始めた。
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