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父の実家
揺れる鮮やかな緑の中を練馬ナンバーを付けたワゴンタイプの車が走っていく。
いくつもの山を越え、20軒足らずの集落で止まった。
「雄輝、おじいちゃんチに着いたぞ。」
お父さんがサングラスを外しながら後部座席を覗き込んだ。
「う‥‥ん」
よだれを垂らして寝ていた雄輝は半目を開いて左右を見渡した。
360度山に囲まれ、木と空しかない風景の中にお父さんが生まれた家があった。
その玄関の戸がガラッと開き、従妹の菜々が顔を出した。
「うーきにーたん!!」
3歳になったばかりの菜々は"ゆうき”を"うーき“としかまだ言えなかった。
雄輝は半開きの目で菜々を見ながら手をあげた。
お父さんの実家には、おじいちゃん、おばあちゃん、ひいじいちゃんの3人しか住んでいない。
お父さんの妹である佳奈子おばさんが近くに住んでいるので、菜々を連れてよく実家に来るらしい。
長男であるお父さんが本当は実家を継ぐべきなのだが、お父さんは戻ってきたがらない。
こんなど田舎なのだから当然だろうと雄輝は思う。
半径5km以内にスーパーもコンビニもない。
代わりにあるのは、熊が出そうな森に、蛙の大群がいる沼や、虫や蛇が隠れている藪ぐらいだ。
雄輝だってさっさと住み慣れた街へ帰りたかった。
でも今回は、ただのGWの帰省とは違っていた。
雄輝のお母さんのお腹には赤ちゃんがいて、お母さんが無理をすると成長していない赤ちゃんが早く産まれてしまうらしく、お母さんは今 入院している。
お父さんは仕事で帰りが遅くなったり、出張があったりするので、小学3年生の雄輝を一人で留守番させるのは心配だ、ということで赤ちゃんが産まれるまでの約数か月間、お父さんの実家で暮らすことになったのだ。
お父さんが車から家へ荷物を運び始めた。
雄輝も自分のリュックを持って家へ入ろうとした時、小屋の方にひいじいちゃんがいるのが見えた。
家の奥から おばあちゃんがやってきた。
「雄輝よく来たな、疲っちゃべ?」
「ううん、寝てたからあっという間だったよ。」
「じいや見かけたから ちょっと行ってくるね。」
すると菜々が慌ててサンダルを履いた。
「菜々も行ぐ!!」
雄輝は菜々の手をつないでゆっくり歩いてじいやのところへ向かった。
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