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「荘厳――。そして力強さと艶めかしさを内包した凛とした立ち振る舞い。……間違いない。この像はチキューの守護女神。そうだろ? かなめ」
「いや、ただの美少女フィギュアだ。……ところでカルロッテ」
大ヒットアニメ、『オークロードと女騎士団長のプレイが激しすぎて困ってます』のフィギュアを見上げていたカルロッテがこちらを見向く。
「なんだ?」
「いいのかよ? 王女様ともあろうお方がこっちの世界に来ちまってさ。両親も心配しているんじゃないのか?」
「それは大丈夫だ。お抱えの侍女が私に扮しているからな。私はいつもそうやって窮屈な城を抜け出しているのだ、ふふん」
腰に手をやり、胸を逸らすカルロッテ。
その様は、悪いこと自慢で得意げになっている悪ガキのようだった。
「じっとしていることが苦手なお転婆姫ってやつか。それでそのお転婆姫さんはこれからどうするんだ? 俺の家で冒険でも始めるのか?」
カルロッテは「それも悪くはないけど……」と腕を組む。
でもその視線は窓の外に向けられていて、俺の頭上に嫌な予感ってやつが落下してきた瞬間、こう叫んだ。
「外で冒険がしたいっ! チキューという広大なフィールドを思いっきり楽しみたいぞっ! よしっ、そうと決めれば早速――」
「“ダメだ“」
俺は視線を下にして、カルロッテから逸らす。
「なぜだ? なぜダメなのだっ?」
「な、なぜってそれは……それは…………」
理由として“それ”を口にするべきか逡巡する俺。
そのとき、上目使いで見つめてくるカルロッテの瞳が罪悪感を喚起した。
“それ”とは別の嘘を吐くことへの罪悪感を――。
「……かなめ?」
「いや、……ダメじゃない。行くか、外」
「うんっ!」
カルロッテの顔に満面の笑みが浮かぶ。
すると彼女は俺の胸ポケットに飛び込んだ。
どうやらそこがカルロッテの定位置となったらしい。
……違う、罪悪感だけじゃない。
どこかにこれをきっかけにしたいという気持ちがあったから、だから――。
俺は玄関で靴を履き、そして扉を開ける。
2か月振りの外出。
最初の数歩は重くて――でもしばらくすると、足は“重し”のようなそれから解放された。
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