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今現在、カルロッテは俺の部屋の机で湯浴みをしている。
俺が台所から持ってきた、親父愛用のお猪口の中で。
小人とは言え年頃の女子。
よって入浴シーンを見ていいはずもなく、俺はカルロッテに背中を見せて漫画を読んでいた。というより強制的にそうさせられていた。
ちなみに替えの服は必要なかった。
ファンタジー世界特有の魔法ってやつで、手洗いした着衣をカルロッテがすぐに乾かしたのだった。
火加減が難しいと言っていたが、多分炎系の魔法で温めたのだろう。
フンフンフ~ンと鼻唄を歌っているカルロッテ。
6度目の“少しくらいなら”という衝動に駆られたところで、「あのさ、かなめ」とカルロッテが聞いてきた。
「なんだ?」
と俺は振り向く。
いや振り向いてしまった。
衝動の働きかけに押されるように。
「きゃあぁっ、振り向くな、このっスケベ勇者ッ!!」
咄嗟に左手で胸を隠すカルロッテが、空いている右手で俺の顔に火の玉を放つ。
それは俺の鼻に当たると、ジュッと音を立てた。
「あっつッ!! 鼻、あっつッ!! ファイヤーボール飛ばすなよっ」
「かなめが振り向くからだっ。早くあっち向けどスケベ勇者ッ!!」
目玉に食らったらたまったもんじゃないと、再び背中を見せる俺。
やがて落ち着いたカルロッテは、おもむろに口を開いた。
「……さっき一度、外出を断ったでしょ? あれってなんでなのかなって思ってさ」
鼓動が跳ねる俺。
声に変換したくない理由が喉元で停滞している。
でもきっかけを与えてくれたカルロッテになら、と俺はその理由を口にした。
「”引きこもり”だからさ、俺」
「引きこもり?」
「ああ、自宅にこもって学校にも行かないどうしようもない奴さ」
「……」
「……高校受験で失敗したんだよ。そんでもって行きたくもない滑り止めの高校に通って、やっぱりこれじゃないってやさぐれて、最終的にはなにもかもが面倒くさくなって引きこもり。……本当、どうしようもないよな」
「……」
カルロッテの沈黙が背中に突き刺さる。
内包されるのが軽蔑の感情かもしれないと思うと、その痛みが心をえぐりだす。
だけど――、
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