第5話 ~入園料に関して罪悪感を抱かなかったわけではない~

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 ▽▲▽  今現在、カルロッテは俺の部屋の机で湯浴みをしている。   俺が台所から持ってきた、親父愛用のお猪口(ちょこ)の中で。    小人とは言え年頃の女子。  よって入浴シーンを見ていいはずもなく、俺はカルロッテに背中を見せて漫画を読んでいた。というより強制的にそうさせられていた。  ちなみに替えの服は必要なかった。  ファンタジー世界特有の魔法ってやつで、手洗いした着衣をカルロッテがすぐに乾かしたのだった。  火加減が難しいと言っていたが、多分炎系の魔法で温めたのだろう。  フンフンフ~ンと鼻唄を歌っているカルロッテ。  6度目の“少しくらいなら”という衝動に駆られたところで、「あのさ、かなめ」とカルロッテが聞いてきた。  「なんだ?」  と俺は振り向く。  いや振り向いてしまった。  衝動の働きかけに押されるように。 「きゃあぁっ、振り向くな、このっスケベ勇者ッ!!」  咄嗟(とっさ)に左手で胸を隠すカルロッテが、空いている右手で俺の顔に火の玉を放つ。  それは俺の鼻に当たると、ジュッと音を立てた。 「あっつッ!! 鼻、あっつッ!! ファイヤーボール飛ばすなよっ」 「かなめが振り向くからだっ。早くあっち向けどスケベ勇者ッ!!」  目玉に食らったらたまったもんじゃないと、再び背中を見せる俺。   やがて落ち着いたカルロッテは、おもむろに口を開いた。 「……さっき一度、外出を断ったでしょ? あれってなんでなのかなって思ってさ」  鼓動が跳ねる俺。  声に変換したくない理由が喉元で停滞している。  でもきっかけを与えてくれたカルロッテになら、と俺はその理由を口にした。 「”引きこもり”だからさ、俺」 「引きこもり?」 「ああ、自宅にこもって学校にも行かないどうしようもない奴さ」 「……」 「……高校受験で失敗したんだよ。そんでもって行きたくもない滑り止めの高校に通って、やっぱりこれじゃないってやさぐれて、最終的にはなにもかもが面倒くさくなって引きこもり。……本当、どうしようもないよな」 「……」  カルロッテの沈黙が背中に突き刺さる。  内包されるのが軽蔑の感情かもしれないと思うと、その痛みが心をえぐりだす。  だけど――、
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