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『ミゼットガルド』に帰還した俺に、王様及び国民は総出で感謝した。
その後、世界に平和が戻った記念祝典とやらに俺は招かれた。
――が、当然のごとくそこで出される豪勢な食事に舌鼓を打つこともできず、どうせ楽しめないのならと例の浜辺で海を打ち眺めていた。
「いつつっ。絶対、服脱いだら切り傷だらけだな、これ」
俺はふと、空を仰ぎ見る。
大きな従星が3つ浮かぶ、壮大な青天井。
それは何度見ても感嘆の声が出る幻想的な絵画。
俺は今までで一番長い間その光景を望み続けると、やがて「よし」と気持ちを固めた。
「勇者殿、今よろしいかな」
不意に横から聞こえる声。
顔を向けると老女神フラーファがいた。
「女神様ですか。――どうぞ。少しくらいならいいっすよ」
「では手短に。魔王が倒され世界に平和が訪れたこともあり、役目を終えた転移ゲートがもうすぐ消滅します。もしも帰られるのなら、すぐに用意したほうがいいかと思います」
どうやら決意の必要はなかったらしい。
そしてそれは、なんとなく予想できたことでもあった。
「オッケー、大丈夫です。丁度今から帰るつもりだったんで。――よっとっ」
俺は痛みをこらえて立ち上がる。
そして最後となる深呼吸で、異世界の空気を存分に味わった。
するとそのタイミングで老女神フラーファが問い掛けてくる。
「……よいのですか? カルロッテ様に最後のお別れをしなくても」
カルロッテ。
彼女は今現在、城の自室で横になっているはずだ。
意識を取り戻したものの、安静にしていなければならないという周囲の声にしぶしぶ従って。
「いや、いいんですよ。俺、そういうの苦手なんで。それじゃ、帰りますね」
俺は転移ゲートのある崖のほうを見遣る。
「本当にありがとうございました、勇者様」
背中に届くその声に俺は右手を上げると、やがて足を踏み出した。
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