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「ギャアアァ!? ギャギャギャァッ!?」といった感じで騒いでいるゴブリン達は、俺の姿を見ると一斉に固まった。
「どーも、勇者です。じゃ、アディオス」
俺はそれだけ言うと、つまんでいた奴を放り投げたのち、砦の中を縦横無人に走り回った。
たまに滑り込んだりして。
たまに大きなジャンプをしたりして。
たまに逃げ回っているゴブリンを捕まえてぶん投げたりして。
要は砦の中ではしゃいだ。
――失敗とは言えば失敗の異世界転移なのだろう。
でも、巨人というチート能力での無双はぶっちゃけ快感だった。
▽▲▽
老女神フラーファによれば、地球に帰ることは可能らしい。
どうやら召喚するための転移ゲートを俺の住む部屋につなげて、俺がその転移ゲートをくぐってこちらの世界に来たとのことだった。
そんな記憶はないと言うと、召喚なので無意識の状態で来たのだろうとのことだった。
それと、2度目からは自分の意志で来るようにとも言われた。
もし来なければ、もう一回だけ使える『転移転生の儀』によって別の誰かを召喚することになるが、極力俺に来てほしいとも。
そなたは、今は亡きあの人の若い頃に似ている。
ああ、本当にいい男。久々に漲ってきたぞい。
禁断の秘術でそなたを小さくして、今すぐ抱きしめてもらいたい――。
……おえ。
俺は頭を振って、意識を老女神から眼前の崖へと向ける。
俺の頭ほどの高さである岩壁。
でもドワフリア人から見れば、高く屹立する絶崖。
そこに大人が1人通れるほどの大きな虹色の空間――転移ゲートが形成されていた。
俺は一度大きく深呼吸すると一歩踏み出す。
すると、脳裏に浮かぶカルロッテの声。
絶対に帰って来るんだぞ。魔王軍はまだまだいるのだからな。誰もがかなめを勇者として認め称賛した今、かなめは戻ってくる義務があるのだ――。
カルロッテ、か……。
若干高姿勢なところが気になるけど、見た目は悪くないよな。
「おい、何考えてんだ俺。あいつは小人だぞ。さ、さあ、水と飯とフカフカのベッドが待ってるぞ」
そして俺は転移ゲートへと入る。
地球に戻りたい理由ってほかに何かあったかな、と考えながら――。
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