第1章

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「そんなに嫌がるなら、また元に戻してもいいんじゃないか。梨花も、それで元気になるなら」 視線すら合わせず、ぶっきらぼうに言う夫の言葉を受け止め、梯子を元の場所に設置した。収入面で劣る私は、夫に対して頭が上がらない。一生上がることは無いだろう。 娘が産まれて、少しは態度が変わるかと思われたが、全く改善は見られない。むしろ、悪化の一途を辿り続けている。 自分は帰宅するなり、すぐに酒に手を伸ばし、梨花と一緒に遊ばない。話相手になる素振りも見せない。父親らしい事は、一切しない人だ。 梨花はほぼ私一人で育てたような状況だ。しかし、お金がかかる場面となると、どうしても夫の給料に頼らざると得ない。 夫の姿を見る度に、胸の中にどす黒い感情がたまっていく。反面、梨花の笑顔を見て、その感情をどこかに追いやる事が出来ていた。    梨花の笑顔が戻るなら…… そう願い、天井裏にまた入れるようにした。梨花はとても喜んだ。今までの陰鬱な表情が嘘であるかのように、毎日笑顔を見せてくれた。 あれから、約二年は経った。 梨花は小学六年生になった。来年には、将来の事を踏まえ、中学受験をする予定になっている。 しかし、天井裏に入り浸る日々は治まらなかった。毎日、毎日、夜遅くなるまで二階に降りない日もあった。 勉強も頑張って取り組んでほしい。 その思いもあってか、梨花の動向を探りたい気持ちが高まった。何時から何時まで、天井裏にいるのか。今はどんな遊びをしているのか。 梨花が天井裏に入った事を物陰から確認すると、足音を立てないようにゆっくりと梯子に近付いた。 慎重に梯子を昇る。足をかけ、昇るうちに胸の鼓動が緊張で高まる。 天井裏に到達した。体は乗り出さず、頭だけを出して、埃っぽい室内を見渡す。 床に座り込んでいる梨花の姿が見えた。右手には、おままごと用のおもちゃの包丁を持っている。左手には、作り物の人参が握られていた。 (また、おままごとしてたんだ) これから、どうしていこうか考えようと、視線を梨花から外した途端、悲鳴をあげた。 梨花の座っている右斜め前に、体育座りをして、私を見つめる子供の姿があったからだ。 子供の姿にも驚いたが、顔を見た瞬間全身に鳥肌が立った。
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