第1章

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せっかく貰ったプレゼントなのにと、頭の中で思いながら、再度エレベーターの鏡を見つめる。 先週、金髪に染めたばかりの髪が、エレベーターの照明に照らされて、艶を発している。薄く引いたアイラインは、大量の汗をかいた為か、すでに落ちかけていた。 すっきりとした脳内に似合わない疲れ切った顔がそこにはある。ついつい、溜息が出そうになる。顔色も悪い。またエレベーターが動き出す。吐き気が襲ってくる。 軽快な音を立て、エレベーターの扉が両側にスライドして開いた。学ランを着た学生が乗り込もうとする。 しかし、私の姿を見た瞬間、顔が一気に青ざめていった。私は鏡越しに怪訝に思う。 今は靴を脱ぎ捨てただけで、そこまで気分を害する事は無いのではないかと、内心で強く思った。 学生の表情は更に悪くなる。口元を手で押さえ、こみ上げる吐き気を懸命にこらえているように見える。 その姿を見て、思い当たる。今日は香水を多くつけすぎていた。きっと、その匂いがエレベーター内に充満しているのだろう。学生はまだ若い。女性の経験も少ないような顔立ちだ。香水の独特な香りに慣れていないのだろう。 悪い事をしたと思い、振り返り学生に謝罪の言葉を述べようとする。 もう学生の姿は無かった。閉じられたエレベーターの茶色いドアだけが目の前にある。 謝罪ぐらいさせて欲しかったと内心で毒づきながら、鏡のほうへと向き直る。 これからどうしようか。今なら何でも出来そうな気分だ。そうだ。明日は新しい服や靴でも買いに行こう。 今は両方とも薄汚れてしまったから、デートに着て行ける服や靴が少なくなってしまった。 デパートはどこにしよう。先週行ったあそこがいいかな。 顎に右手を添え、考え込む。すると、またエレベーターのドアがスライドして開いた。 頭に帽子を被った警察官の姿が鏡越しに見えた。 驚いて振り向く。 すぐに警察官が二人がかりで私の両腕を抑えると、両手首に手錠をかけた。これでは動けない。 訳も分からず抗議の声をあげようとする。 ただ靴を脱ぎ捨てて立っていただけだ。警察に通報される覚えは無かった。 私は疑問に思いながらも、声をあげようとする。無理矢理振り向かされたせいか、足元のぬめりで滑りそうになった。 ぬめり? 首を傾げ、足元に眼をやる。腹部から滴り
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