引っ越す

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引っ越す

2018年6月17日、日曜日。 朝から大慌てで、母は駆け回っている。 何度目かになる引っ越し。 わたしは中学2年生にして、荷造りに慣れていた。 母の前世は遊牧民とかそういうのに違いない。 そう本気で思うほど、目的を知らされないまま 引っ越しを繰り返していた。 しかも、今回はよりによってこんな梅雨の時期に。 例外なく今日も雨。 関西の田舎にある三階建ての細長い一軒家に住んでいた私と母と妹は、高層マンションが多い、 大阪市内に引っ越すことになった。 今度はおばあちゃんも一緒に。 昨年おじいちゃんを亡くしてから、 責任感の強い長女の母は、 自分の母親との同居を考えていたようだ。 私は黙々と1階にある棚の、 書類が入った引き出しを空にして、 ダンボールにつめる作業をしていた。 「あんたら準備できたーー??」 母がそう言いながら、 3階からものすごい勢いで降りてくるのが、 その足音でわかった。 2階にいる妹が、 おそらくテレビから目を離していない様子で、 適当に返事をしていた。 「あ、ごめんね。お姉ちゃん。 お母さん、すっかりそこ忘れてて! ありがとう!あと10分くらいかな。 引っ越し屋さんくるから、よろしくね!」 透き通った白い肌に、くっきりとした二重、 忙しそうだけれど、同時に楽しそうで、 自分の母ながら、どんな時も綺麗だなぁ、 なぜか雨の日は余計に綺麗に見えるんだなぁと そんなことを考えながら、 「いいよ。自分のはもう終わってるから。」 と、表情からその思いがバレないように、 目をそらして答えた。 ありがとうと言って、 母はまた2階へ上がっていった。 私は最後の書類を取り出しながら、ふぅと息をついた。
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