ささめく庭

1/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

ささめく庭

 耳を閉ざし、ただ待ち続ける。  ずっと。ずっと。  また会える、その時まで。  うす明るい、小雨模様の空に唐突にさした影に、思わず見あげるように振り向く。 「やっと、こっち向いてくれた」  やけに嬉しそうに、安心したように、ひょろっこい感じの青年が微笑む。  影の正体は彼の差し出した傘だったようだ。 「毎日、ここに立ってますよね?」  二十歳そこそこ、といった感じだろうか。  整った顔立ちに、高い身長。物腰も柔らかくて……出来すぎていて、胡散臭くなりかねないぎりぎりのところだけれど、まぁ、女の子にはもてそうだ。  私の好みのタイプじゃないけど。 「何か、用ですか?」  ナンパ? などと思うほど自惚れていない。  だからこそ不審で、言葉に棘がこもる。  青年は気にした様子もなく、それでも微笑を静かなものに変える。 「何かを……誰を待ってるんですか?」  何もかも見透かしたような言葉。  無視しても良かったのだけれど、それにはちょっと飽きていた。  ただひとり、居続けるのが淋しくなったのかもしれない。 「私、ここで結婚式をする予定だったの」  アーチ状の門扉の向こうの白いチャペルを見る。     
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!