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「……」
無言でずっと俺を睨んでいる彼が、とても怖くて仕方なかった。俺…この人と何か関わりあったっけ……?
「おい、お前。梓に何してくれてんだよ?」
俺の傍にいた人に彼は問う。そう言えば、この人の名前も俺は知らないでいた。
「別にいいだろ、こいつは今日から俺の物だ。」
「は?警察官のお前が何言ってんだよ。人を散々誘拐犯扱いしておいて…お前も人のこと言えないぞ!?言ってることとやってることがめちゃくちゃすぎるだろうが!!」
そう言って彼は警察官の人を殴り、思いっきり吹っ飛ばしていた。歯も一本抜けていた。警察官の人は何とか上体を起こして口を開く。
「ちっ…お前の方がよっぽど誘拐犯だろうが…。それに…。」
そう言って警察官の人は俺を抱き起こし、顔をベタベタ触る。
「こいつは今、俺にベタ惚れなんだよ。まぁ、薬を飲ませたのもあるけど、ここを俺の家だと勘違いまでしてるんだぜ?」
「……」
触られて…嬉しいはずなのに、何でだろう?体が拒否している。気持ち悪い…この人のこと好きなはず…なのに……。無意識に俺は、警察官の人を引き剥がしていた。
「…あ?」
「ごめん…なさい……俺…あなたに触られるの…嫌です…。それに、ベタ惚れなんてしてません…。自分の家だと勘違いしたのは…事実ですが、それだけでベタ惚れなんて…決めつけないで…ください。」
そう言って立ち上がり、名前も知らない彼の後ろに隠れる。
「梓……」
「不思議…ですね……」
「何が…?」
「あの人のことが好き…なはずなのに……あなたの顔を見ると…懐かしくて…心が温かくなって…必要と思ってしまうんです…。あの人よりも…」
「……」
彼はしばらく黙っていたが、俺の頭を優しく撫でてくれた。
「梓、思い出してくれないか?薬のせいでお前は、あいつのことが好きだと言っているが、本当は俺のことを好きって言ってくれたんだぞ?」
「薬…?あなたを…好き…?」
「無駄だっての!そいつに飲ませた薬は、効果が切れにくいんだ。そんな早くに切れねぇよ!」
「何だと!?てめぇ、こいつに変なもん飲ませんな!」
二人の言い合いが聞こえる中、俺は必死に思い出す。けど、中々思い出せない。彼と一緒にいた覚えがない。俺が頭を悩ませていると…
「てめぇに何が分かるって言うんだよ!親を亡くして、凄く傷ついたこいつの気持ちがよ!!」
その時、俺の頭で何かが切れる音がした。
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