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第4章 特別
あれから、父さんからの連絡はない。城崎先生の家に押し掛けに来ることもなくなった。正直嬉しかった。
「まだ、お父さんから何も連絡来ないのか?」
「…はい。」
「……少しあれだけど、1度家に戻った方がいいんじゃないか?何だか…嫌な予感がするんだ…。」
先生の言葉は暗かった。とても嫌と言えない雰囲気だった。
「分かりました…土曜日、行ってきます。」
そして、土曜日。家に着いて中に入る。
「ただいま…」
すると、いつもは静かな家がガヤガヤとしていた。手伝いの人達がもめてるのか?そう思いながら、声のする方に向かった。声が聞こえるのは父の書斎からだった。
「あ…あの……何かあったんですか?」
書斎の中に入ると、手伝いの人が気づいて俺の元に慌てて近寄ってきた。
「あ…梓様……旦那様が…旦那様が……!」
「……っ!?」
見ると、父さんが倒れていた。
「父さん…?父さんっ…!」
そんな俺の必死に叫ぶ声も虚しく、メイドの手伝いが俺に言った。
「梓様…旦那様は……もう…」
「えっ…?」
手伝いの人によると、先週から体の具合がよくなかったらしい。そして今日、急に発作を起こしたらしく、手伝いの人達が気づいて部屋に入った時にはもう手遅れだったらしい。父さんが…死んだ……。死んだということに理解が出来なかった。重い足取りで、城崎先生の自宅に行った。チャイムを鳴らすと、先生が出てきた。
「遅かったな…大丈夫だった……ってか、どうしたんだ?下向いて……また何か言われたか?」
「……先生…」
顔を上げて城崎先生を見ると、涙が溢れてきた。
「えっ…維網!?」
「あ…あれ……?」
どうしよう…止まんない……俺は玄関で泣き崩れた。
「維網…とりあえず、中に入ろう。」
先生に言われ、俺は泣きながら先生の家の中に入った。リビングに連れていかれ、先生は俺を抱きしめる。
「落ち着くまで、傍にいるから…大丈夫だ。」
その言葉に、余計に涙が溢れて止まらなくなった。父さんの死が…自分にとってこんな苦しい思いをするなんて、予想外だった。それでも…母さんが死んでから、たった1人の家族だったから…悲しくなったんだろうな……。父さんのことは…好きではない。どちらかと言うと、嫌いに近かった。でも…俺を、育ててくれた大切な父親。その事を考えると嫌いになりたくてもなれなかった…。どうせなら…俺もあの世に連れて行ってほしかったな……。
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