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第5章 嘘と真実
貴史side
朝、目が覚める。病室の蛍光灯が見えた。手先は軽く動ける。昨日…手先まで動かなかったのが嘘みたいだ。俺は上体をゆっくり起こす。すると、梓が俺のベッドの端で眠っていた。一晩中付き添ってくれてたんだな…。梓のその優しさに、嬉しさがこみ上げた。
「……んっ…」
梓が目を覚ました。
「おはよう、梓。」
「……」
梓は、まだ寝ぼけたような表情で俺を見上げる。そして満面の笑顔を向けた。
「城崎先生…」
その笑みには、笑っている他にどこか切なさが溢れているみたいだった。
「梓…昨日はありがとな。助かった。」
「いえ…城崎先生が無事で…よかったです。」
「俺は平気だ。お前こそ無事でよかった。」
「ちょっと、怖かったですけどね。」
昨日、怖い思いをしたのにその事を話して大丈夫かと…話し始めてから思ったが、梓はまるで無敵かのような様子で話していた。
「…ごめん、ちょっと飲み物買ってくる。」
「それなら俺が行ってきますよ?」
「本当?じゃあ…頼もうかな?」
「いいですよ!何飲みたいですか?」
「……烏龍茶がいいな。」
「分かりました、じゃあ行ってきます。」
梓は病室を出て飲み物を買いに行ってくれた。正直、買いに行かせたくはなかったけど…。すると、病室をノックする音が聞こえた。
「…はい。」
ドアが開いて警察の人が来た。
「城崎貴史さん…ですね?」
「はい…」
「私、警察署長の松村という者です。実は、ある件のことについてなのですが…」
「何でしょう?」
「維網梓の行方不明事件のことなんですが、どうやらあなたに誘拐されたとかなんとか。昨夜、あなたの家に事件があって駆けつけた部下のものが、維網梓があなたの家の中から出てきたらしいんです。」
「……」
「それで、実際のところどうなんですか?あなたは誘拐したのですか?」
「…いえ。俺は、梓君の通ってる高校で教師をしています。それで父親が亡くなって、どこにも居場所がないと相談に乗りまして…それで、俺の家に来たらどうだ?と提案しました。本人も納得して、許可を出してくれたので俺の自宅にいます。…もしかして、そのようなことは駄目でしたか?」
「……とりあえず、あなたの体が回復してから一度署まで来てください。それでは、私はこれで。」
そう言って、署長は病室を出ていった。
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