第7章 貴史の婚約者

4/11
前へ
/64ページ
次へ
貴史side 俺は、梓と一緒に家に帰った。途中でゲリラ豪雨が降ってきて、服がびしょ濡れになった。 「すげぇ濡れたな。梓、大丈夫か?」 「大丈夫で……くしゅんっ!」 「雨で濡れたから冷えたか?風呂に入らないとな。それにしても、もう少し髪拭いた方が……」 梓の髪がまだ濡れていて、拭いてあげようと思って手を近づけると、勢いよく叩かれた。 「……あ。」 梓の顔は真っ青のまま小声で呟く。さっき、俺が梓の腕を壁に打ち付けてしまったから、叩かれるのも仕方ない。 「…ごめん、あんなことして。触られるの嫌だよな。もうお前の嫌なことはしないから。あ…先に風呂に入って来い。俺はリビングで適当に暇潰しするから。」 俺は、濡れた髪を拭きながらリビングに向かう。すると突然腕をひかれた。振り向くと、梓が俺の腕を掴んでいた。 「…梓?」 「あ、あのっ!俺なら…大丈夫ですから!だからその……い…一緒に…入りませんか……?」 「え…?」 予想外の言葉だった。あんなことされたのに平気なはずがない。体もまだ震えてるのに…。そして梓は続ける。 「その状態のままじゃ、貴史さんも風邪引いちゃいますよ。俺のことは気にせずに、一緒に入りましょう!」 「けどお前、体震わせてる。まだ俺のことが怖いんだろう?無理しなくていいよ。一人で入って来い。」 「大丈夫ですよ!こんなの!入りましょう!!」 そう言って、梓は俺の腕をとったままぐいぐいと風呂場に連れていく。渋々服を脱ぎ、風呂の中に入る。シャワーだけでいいやと思っていると、梓が無理やり風呂の中に入れられた。そして梓も風呂につかる。しばらく静寂が訪れる。すると、梓が口を開く。 「あの…貴史さん…。」 「どうした?」 「その…近くに行ってもいいですか?」 「…いいけど。」 すると、梓は俺の元に近寄って来た。と同時に俺に抱きついた。 「…梓……」 「貴史さんって…意外と頑固なんですね。大丈夫って言ってるのに。」 ムスッとした表情の梓。 「大丈夫って言ってるけど、お前の体が震えていて大丈夫そうじゃなかったから言ったんだよ。それなのに無理して…」 「無理なんかしていません!まだちょっとだけ怖いですけど…でも、愛してることに限りはなかったから……。」 「俺も同じ気持ちだよ、梓。俺の場合、お前のことが大切で愛しているからこそ、これ以上お前の嫌がることはしたくないって思った。」
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加