38人が本棚に入れています
本棚に追加
「…貴史さん……」
梓は泣きそうな表情だった。そんな表情をされたら、俺までつられそうになる。
「そんな悲しい顔すんなよ。」
俺は、梓の頭を優しく撫でる。すると梓は号泣した。俺はただ、梓の頭を撫でて優しく抱きしめてあげることしか出来なかった。
風呂から上がって、着替えを済ます。ちょうど着替え終わった時、電話が鳴った。
「…誰だろう?」
携帯を見ると、心彩からだった。梓はお風呂でのぼせて部屋で休んでいるので、リビングで電話に出た。
「もしもし…心彩?」
「あ、貴史ー!もぉ、さっきから電話してるのに全然出てくれないなんて酷いよぉ!!」
「ごめん、風呂入ってて…それで、何か用事?」
「あのさぁ…私……全然言えなかったんだけど…貴史のことが好きなの。だから、私と付き合って?」
「……え?」
急な告白に、俺は驚いた。俺は、しばらく黙り込んでしまったがすぐに口を開いた。
「心彩、気持ちは嬉しいんだけど…ごめん。俺、好きな人いるから。」
「へぇー、そっかぁ…。じゃあ貴史のお父さんの働いている会社、潰そっかなぁ?」
「…はぁ!?何で潰すんだよ!!」
潰す!?冗談じゃねぇ!俺は声を荒らげた。
「だってぇ、貴史が付き合ってくれないのが悪いんじゃん。」
「だから俺は、好きな人がいるって……!」
「婚約」
俺が言い終わる前に、心彩は言う。婚約?
「私のお父さんと、貴史のお父さんが話してるの聞いたの。私と貴史を婚約させるって。」
「はぁ?おい、冗談やめろよ。」
「あら、本当のことよ。デタラメだと思うなら、証拠写真があるから見せてあげる。」
すると、LIMEに心彩から写真が送られてきた。見ると、婚約届に俺と心彩の名前が書いてあった。
「何で勝手に名前書いてんだよ!本人の賛同がなければ結婚なんて出来ねぇはずだろ!?どういう神経してるんだよ!」
「あら、どういう神経してるのかって…それはあなたのお父様のことじゃない。」
「…は?」
「実はね、私のお父さんに脅されてたのよ?私と結婚しないと、貴史のお父さんの会社を潰してあなたを殺すって……。」
「……っ!!」
殺す…?そんな……心彩と婚約しないだけで殺されるのかよ……俺は、自分の不甲斐なさに悔しくなった。仕方なく、俺は口を開いて言う。
「…分かった。だけど、少し時間をくれないか?好きな人に思いだけ告げたいから。」
「分かったわ。一週間だけ時間をあげる。その後には結婚ね?」
最初のコメントを投稿しよう!