第7章 貴史の婚約者

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「…貴史さん……」 梓は泣きそうな表情だった。そんな表情をされたら、俺までつられそうになる。 「そんな悲しい顔すんなよ。」 俺は、梓の頭を優しく撫でる。すると梓は号泣した。俺はただ、梓の頭を撫でて優しく抱きしめてあげることしか出来なかった。 風呂から上がって、着替えを済ます。ちょうど着替え終わった時、電話が鳴った。 「…誰だろう?」 携帯を見ると、心彩からだった。梓はお風呂でのぼせて部屋で休んでいるので、リビングで電話に出た。 「もしもし…心彩?」 「あ、貴史ー!もぉ、さっきから電話してるのに全然出てくれないなんて酷いよぉ!!」 「ごめん、風呂入ってて…それで、何か用事?」 「あのさぁ…私……全然言えなかったんだけど…貴史のことが好きなの。だから、私と付き合って?」 「……え?」 急な告白に、俺は驚いた。俺は、しばらく黙り込んでしまったがすぐに口を開いた。 「心彩、気持ちは嬉しいんだけど…ごめん。俺、好きな人いるから。」 「へぇー、そっかぁ…。じゃあ貴史のお父さんの働いている会社、潰そっかなぁ?」 「…はぁ!?何で潰すんだよ!!」 潰す!?冗談じゃねぇ!俺は声を荒らげた。 「だってぇ、貴史が付き合ってくれないのが悪いんじゃん。」 「だから俺は、好きな人がいるって……!」 「婚約」 俺が言い終わる前に、心彩は言う。婚約? 「私のお父さんと、貴史のお父さんが話してるの聞いたの。私と貴史を婚約させるって。」 「はぁ?おい、冗談やめろよ。」 「あら、本当のことよ。デタラメだと思うなら、証拠写真があるから見せてあげる。」 すると、LIMEに心彩から写真が送られてきた。見ると、婚約届に俺と心彩の名前が書いてあった。 「何で勝手に名前書いてんだよ!本人の賛同がなければ結婚なんて出来ねぇはずだろ!?どういう神経してるんだよ!」 「あら、どういう神経してるのかって…それはあなたのお父様のことじゃない。」 「…は?」 「実はね、私のお父さんに脅されてたのよ?私と結婚しないと、貴史のお父さんの会社を潰してあなたを殺すって……。」 「……っ!!」 殺す…?そんな……心彩と婚約しないだけで殺されるのかよ……俺は、自分の不甲斐なさに悔しくなった。仕方なく、俺は口を開いて言う。 「…分かった。だけど、少し時間をくれないか?好きな人に思いだけ告げたいから。」 「分かったわ。一週間だけ時間をあげる。その後には結婚ね?」
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