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「え…でも迷惑じゃ……」
「全然迷惑だなんて思ってないよ?」
「でも……」
俺が言葉を濁したせいか、城崎先生が口を開く。
「…やっぱ……俺の家なんて来たくないか。」
「ちっ、違いますっ!そうではなくて……」
「じゃあ…何……?」
「…親にバレたら…何を言われるか……正直、怖いんです。他人の家に行くなど許さないとか、何てことをしてくれたんだとか…1回そう言われたことがあったから……」
「そっか…ちょっと、耳貸して。」
「…はい……?」
俺は、言われるがままに耳を傾けた。
「抵抗はあるかもしれないけどさ、こう言ってみたらどう?」
そう言って、城崎先生は小声である作戦の提案をした。俺は…何の迷いもなく、そのまま作戦を実行することにした。
学校が終わり、家に帰宅した。部屋で準備をしていると父親が部屋に入ってきた。
「梓、何をしている?帰宅したあとはすぐに勉強をする約束だろう。」
「これから先生の家に行って勉強を教えてもらうので、何日か留守にするから。」
「ほぅ?それは本当か?」
「本当だよ。それじゃあ、行ってきます。」
準備を終えて、部屋を出る。そのまま家を出たが、止められもしなかったので気にせず城崎先生の自宅に向かった。やっぱり、勉強の話題なら許してくれるのかなと思いながら歩いて、目的地に着いた。4階の405号室を見つけインターホンを鳴らす。すると、すぐに先生が出てきた。
「いらっしゃい、待ってたよ。」
優しく微笑む城崎先生に、俺の胸が高鳴った。
「お、お邪魔します…」
「どうぞ。」
中は凄く綺麗で、とても成人男性の一人暮らしのようには見えない部屋だった。
「とりあえず、お茶出すね。」
そう言って、城崎先生は台所に向かった。その時、ドクンッと心臓が動くのを感じた。行かないで…俺を置いて行かないで……そういう辛い思いが強くなっていった…気づいた時には、俺は城崎先生に後ろから抱きついていた。
「維網…?どうした……?」
急な出来事に城崎先生も驚きの表情を浮かべている。
「……やだ…行かないで…行かないでください…」
気づけば俺は泣いていた。何でかは全然分からなかった。もう、号泣しそうな程に胸が苦しかった。そんな俺を城崎先生は、嫌がりもせず優しく抱きしめてくれた。
「大丈夫…どこにも行かないから。」
「……っ!」
その言葉に俺は涙を抑えきれず、号泣した。城崎先生の抱きしめる手がとても温かく感じた。
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