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雨期
雨が続いている。今年の雨期は何故こんなに長いのだろう。
教壇では数学の講師がいつもの単調な口調で何かを説明しているが、天候の陰鬱さに気の塞いでいる僕の頭には全く入ってこない。
隣の席の女の子は具合が悪いのか、机に突っ伏して寝ている。その背中にどこからか苔の胞子が集まってきて瞬く間に発芽し、彼女を緑の繊毛で覆い始める。僕が彼女の肩を揺すり彼女が小さな呻き声とともに身震いすると、それは繁殖を諦めて空中に飛び散り、鈍い光の中で見えなくなった。
夏が来るのはいつか、本当に来るのか、誰にもわからず、その日まで暦(こよみ)は雨期の日付を増やし続けている。今日はもう六月の八十二日だ。
空には鉛色の雲が絹のように広がり、音もなく波打っている──
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