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ああ、早く帰りたいな。
そう思っていた矢先、私の意識を強引に引き戻す会話が、二人の間に続いていた。
「いや、誘拐じゃないくて。あ、な、なんと言うか」
「落ち着いて。深呼吸でも」
工藤の口調は激しくなっていた。
冬姫の提案など端から聞く気もない。
溢れ出る言葉を、まだ辛うじて残る理性で選別しようと努力しているが、
時期決壊するのは明白だった。
「赤ちゃん、お腹の中に、中にいたんですよ。だから、そんなことあるはずないのに。
消えたんですよ。お腹から。子供、私の子供。どこに、どこに言ったのかわからなくて。
でも痛くもなくて。重くもない。――おかしいですよね?」
私達は反応に困っていた。
工藤の言葉をそのままに受け取れば、彼女は妊娠中に胎児を失くしたという。
しかも一切の外傷も違和感もなく、自身の知らぬところ突如として喪失した。
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