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就寝
月明かりだけが、私の頼りだった。
電球では眩しすぎる私の目には、あの大きな照明の、しかし淡い光がちょうど良かった。
そしてここではどうしてか、月が大きく見える。
現実にはありえないほどに拡張された青白い月が、町を押しつぶそうとしている。
まるで私の合図を待っているみたいに。
もしかしてあの月は、中空でピアノ線に固定されていて、
後はほんの一突きでもすれば、私の細長く心もとない指でも墜ちていくだろう。
それは――ほんのちっぽけな自尊心だ。
注意を切り替える。拘束されたように動こうとしない足に、
今日もまた落胆して、私は区切りにならない眠りに入ろうとする。
眠たくもない目を閉じることは、想像するよりずっと難しい。
だからまた目が泳いでしまう。ガラスの向こう側、真っ暗で光の積もる町の俯瞰へと。
のっぺりと張り付く壁紙のような風景は、
一目でココがどれだけ異質な場所なのかを教えてくれる。
けれど、そこは決しておどろおどろしい魔境というわけでもなかった。
例えるならそう、子供部屋のような雰囲気。
ありとあらゆる『体験』に飢えている子供達を、満足させるために誂えられた世界。
延々と広がる文明の平野は好奇心を掻き立て、
果てのない夜空は恐怖を覚えさせてくれる。
そして人工の光に飲まれながらも、懸命にぽつりぽつりと輝く星達は、
理由のない希望を与えて、安らかな眠りを誘う。
そんな景色を一望する丘の上に立つ、大きな洋風の屋敷が私の住処だった。
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