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私の部屋は壁の一面がガラス張りになっていて、
綺麗な夜景をその隅々まで見渡せるようになっている。
だからここを『展望台』と街の人たちは呼んでいる。
周りは代わり映えのない規範的な住居ばかりのこの街に、古くからある異質な館。
町の住人たちにとって、ある種のシンボルとなるのも理解できなくはなかった。
だけど、そんなことはもう私には関係のないことだった。
日に日に弱っていく体は、ついに立ち上がる自由さえ私から奪い取ったのだから。
そんな体で町に下りることなど出来るはずもない。
結果、外との関わりなど気にする必要性もなく、
この家がなんと言われようと関係はない。
死の瀬戸際を彷徨う私にはただ、この風景を睨み続けることしか出来なかった。
だから私はあれが恨めしい。
私を置いてけぼりにして勝手に前へ進んで、
何もかも有耶無耶にして平穏を歩み続ける彼等。
でもそれが私自身の逆恨みであることは明白で、
無意味な憎悪に限りある生命を費やすのは、あまりにも愚かだ。
しかし未練を捨てきれない、過去と折り合えない自分がいることも真実だった。
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