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地主だったお父様が建てて、お金以外に残していった唯一の遺産であるこの住処。
『意味のある』という意味で遺された、私のヨスガであり足枷。
この束縛から解放されて、あの町で遊べたらどれだけ素敵なことだろうか。
日焼けに肌を掻いて、沁みる塩水に目を目を窄めることの、どれだけ不可能なことか。
願わくばもう一度――いや、これはやめよう。
「お嬢様。まだ起きていらっしゃったのですか。――お体を大切にしないと」
控えめに開いた扉の先から、いつもの声が聞こえる。
心配性な母親じみた声。
「うん、ごめんなさい。そうするわ」
これ以上彼女に無駄な時間を使わせたくはない。
私は掛け布団をガサガサ鳴らして、大げさに包まった。
おやすみなさい。
浮きかけた足を落として、私はベッドに埋没した。
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