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先日、お姫様は隣国の王子と婚約しました。かの国は魔法の研究が盛んだとのこと。その技術を得るための、政略結婚です。
そうなったら、この国を出ることになります。もう、泣いてばかりはいられません。王女として、この国の看板に泥を塗るわけにはいきませんから。
お姫様はぎゅ、と手を握りこんで、目を瞑ります。怖くない、怖くない……。そう念じながら寝ようとしますが、頭は冴えていくばかり。ぽろ、と目尻から涙が零れ落ちます。
(泣いたら、だめ……)
だけど、一度溢れた涙は止まることを知りません。お姫様は手で顔を覆い隠しました。うう、という声が、静かな部屋に響き渡ります。
そのときのことです。
「どうしたの?」
突然降ってきた声に、いっそう涙を零しながら、お姫様は体を起こします。そこには、お姫様と同じ年くらいの少年がおりました。闇に溶けるような黒色の髪に、同じ色の瞳を持つ少年です。
侵入者。その文字が、お姫様の脳裏に煌めきます。だけど不思議と、少年に対して恐怖は浮かびませんでした。
少年はポロポロと零れ落ちる涙を白い指で掬い取ると、口をゆっくりと動かします。
「ねぇ、どうしたの、お姫様? そんなに婚約が嫌なの?」
「……ちが、うわ」
「だったら、どうして?」
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