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弟の名を聞き、以蔵は目を怒らせた。
「あいつは関係なか! 勤王党の活動に参加しておらんし、何も知らん!」
「そうかな? 土佐勤王党には血盟書なるものが存在するらしいじゃないか。あれの名前を調べれば」
血盟書の五十八番目には啓吉の名前がある。
はしゃいだ弟がそう話していた。
「あの血盟書は偽もんじゃ」
以蔵は嘘がばれないよう、わざとせせら笑うように言った。
「あれは武市先生が人数が多そうに見せかけるために、適当な下士だの庄屋だのの名前を書いたもんに過ぎん」
「……」
その指摘に覚えがあるのか、藩吏が押し黙る。
しかし、それで引っ込む藩吏ではなかった。
「信用できんな。お前の話は嘘ばかりじゃからな。なんぞもっと信じられる話があるなら、それも信じるが」
「……ある」
短い沈黙の後、以蔵が藩吏に挑むように顔を上げた。
「ほう……あるなら聞こうか」
以蔵の口から語られたのは、自分の暗殺及び同じく天誅に関与した同志の名だった。
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