0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
曖昧な暖色に彩られた曇り空を見上げたとき、放送委員のアナウンスが響いた。
「あ、もう下校時刻か」
放課後の時間を図書室で過ごすようになったのは、いつからだったろう。
いつの間にかぼく自身の中でそれが自然なことになっていたから、きっかけなんて思い出せなくなっていた。
たぶん、誰かの影響を受けたんだろうーーこの高校に入るまで決して本好きだったわけでもないので、そうは思うんだけれど……。
「ほらほら吉井くん、そろそろ帰ろう。何か借りてく?」
「あ、はい」
大学生かと思うくらいには若い司書の先生に声をかけられて、借りたいと思った本をカウンターに置く。今年になって導入されたバーコードを、慣れていなさそうな手つきで処理する先生を見ながら、本棚に残りの本を片付ける。
最近ほぼ毎日そんな調子だ。
そのとき。
カサッ
「ん?」
持っていた本を戻そうとして開けた隙間から、1枚の紙が落ちてきた。
ちょっと古そうなその黄ばんだ紙を拾い上げてみると、そこには『また会えますように』という拙いーーとまでは言わないものの、決して上手とは言えない文字。
ご丁寧に名前まで書かれていて。
……あぁ、そうだった。
ぼくはようやく、自分がここにいるようになったきっかけを思い出した。
最初のコメントを投稿しよう!