舞台袖にいるままでは

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 曖昧な暖色に彩られた曇り空を見上げたとき、放送委員のアナウンスが響いた。 「あ、もう下校時刻か」  放課後の時間を図書室で過ごすようになったのは、いつからだったろう。  いつの間にかぼく自身の中でそれが自然なことになっていたから、きっかけなんて思い出せなくなっていた。  たぶん、誰かの影響を受けたんだろうーーこの高校に入るまで決して本好きだったわけでもないので、そうは思うんだけれど……。 「ほらほら吉井(よしい)くん、そろそろ帰ろう。何か借りてく?」 「あ、はい」  大学生かと思うくらいには若い司書の先生に声をかけられて、借りたいと思った本をカウンターに置く。今年になって導入されたバーコードを、慣れていなさそうな手つきで処理する先生を見ながら、本棚に残りの本を片付ける。  最近ほぼ毎日そんな調子だ。  そのとき。  カサッ 「ん?」  持っていた本を戻そうとして開けた隙間から、1枚の紙が落ちてきた。  ちょっと古そうなその黄ばんだ紙を拾い上げてみると、そこには『また会えますように』という(つたな)いーーとまでは言わないものの、決して上手とは言えない文字。  ご丁寧に名前まで書かれていて。  ……あぁ、そうだった。  ぼくはようやく、自分がここにいるようになったきっかけを思い出した。
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