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後日、警察が浅間の前に訪れ、事情聴取をした。
その場所は、商店から外れた路上という事もあり、監視カメラが一台も設置されていなかった。浅間が目撃した乗用車の情報が唯一の視覚情報となって、ひき逃げ犯は無事に逮捕された。
その事が街の住人に知れ渡たったのか、いつしか、公園の浅間の事を、皆は『安全カメラ地蔵』と呼ぶようになった。
「『安全カメラ地蔵』か、口も効けない『地縛霊』より、少しは昇格したのかな」
浅間はそんな噂を前向きに捉えていた。
『安全カメラ地蔵』が居れば、安全と思ったのか、夫婦共稼ぎの親たちが、わざわざ、遠くから子供たちを浅間の居る公園に連れて来るようになった。浅間の居る公園は、野外フリー託児所のようになっていた。
いつしか、ボランテイアと称するおばさん達も集まり、寂しかった公園は、子供たちの声が始終なり響く、活気あるコミュニテイに代わっていた。
だが、『安全カメラ地蔵』こと、浅間に出来ることは、以前と同様に、そこに座り続けることだけだった。
周囲がいくら変わろうが、自分がその周囲の人達に提供できる何かが無ければ、結局は何も変わらない。浅間は、逆に周囲が賑やかになればなるほど、自分の居場所が失われていく寂しさを感じていた。
そろそろ別の場所に移ろうか、浅間はそう考えていた。
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