死神のオルゴール

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「ユリカ! あんたなんて本を読んでるの!」  唐突に怒鳴られはっと顔を上げると、先生が私を見下ろしていた。 「ひ……」  小さく声を上げる。  先生が教科書で巧妙に隠した本を私の手から奪い取る。 「ソイタルによる魔法学」  彼女は本のタイトルを読み上げ、指で長い髪をいじった。  眼鏡の奥で、彼女の瞳がぎろりと動き、私を睨む。 「魔法の本ね」  私は答えなかった。  というより、何をどう答えればいいのかわからなかった。  まさか、ソイタルではなくソリタルです。綴りは同じですが読み方が違います、などとは言えない。 「あなた、こんなもの読んでどうするの? こんな――卑賎な本を」  それに対しても、何も言い返すことはできなかった。とてつもなく、嫌な気持ちになっただけで。  はあ、と先生がため息をつく。とても優雅に、そして高圧的に。 「まあいいわ。これは没収よ。後で適当に燃やしておく」  そして、彼女は教壇へと戻りながら続けた。 「ユリカ、あんた後で教務室に来なさい」  はい、と何とか声を出した。彼女に聞こえていたかどうかはわからないが。  クラスのみんなが少しだけ私を見て、そして目をそらす。  私はもう、授業を聞くことができなかった。  でも、どうでもいいい。どうせだいたい頭の中に入っている。  ほかのことを考えよう。  例えば――様々な呪文を。それを唱え、思うがままに操ることを。  高度に発展した呪文の、一字一句を思い浮かべる。少し気が紛れた。  自分の知識を試すように、できるだけたくさんの呪文を思い浮かべることに集中する。  そうしていると、唐突に終業の鐘がなった。少なくとも私には唐突に思えた。 「――それでは、明日までに今日習ったことの復習として、水亀を召喚し、学校に連れてくるように。契約はしてはいけません」  それでは。そう言って彼女は授業を切り上げた。  起立、礼、着席。ほかの先生ならしっかりやる礼儀を、彼女は生徒に指示しない。嫌いなのかもしれない。  彼女は教室を立ち去ろうとして、ふと止まった。ぎろり、と私を見る。 「ユリカ、ついてきなさい」  はい、と答える。  次の授業には間に合わないかもしれない、と他人事のように思った。
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