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次に名乗りを上げたのは、村一番の美女と名高いキシュヌさんでした。
物腰は柔らかながら、芯のある凛とした態度で人気も高い人のようです。
「それならば、わたくしが参りましょう。わたくしの命一つで村が救えるのなら安いものです」
ドラゴンの生け贄になるのは、年若い美女と相場が決まっています。
そういう意味でいえば、キシュヌさんは適任でしかありません。
村の人たちはキシュヌさんの犠牲が惜しいのか、すすり泣きを始める人もいるくらいでした。
そんな中、ゴーレヌさんがあごひげを摩りながら、難しいと呟きました。
「キシュヌは確かに生け贄に相応しいかもしれないが……隣村との縁談があっただろう」
どうやら、キシュヌさんはすでに婚約している方がいるようです。
隣村とは互いに互いの村に足りないものを補う間柄で、その関係性は何よりも大事なものだそうです。
キシュヌさんを失えば、その縁談は自動的に破談になってしまいます。
しかし、すでにキシュヌさんが嫁入りするという前提で、隣村とのやりとりは続いているのでしょう。
いまさら破談となれば、色々と不都合が生じてしまいます。
キシュヌさんはそれでも自分が犠牲になろうという意思はあるようでしたが、周りが説得し続け、折れました。
他の候補にするべき、という結論になったのです。
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