夜の青空

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   そのコスモスには何かが足りなかった。だけど、それが何かは分からない。見つめれば見つめるほどに美しく、弱々しく、どこか自由で、長閑だった。  夜、公園のベンチに一人で座っていると、俺は柄にもなく、年相応のセンチメンタルな気持ちになった。  お気に入りの曲が、儚くもどこか懐かしいギターの後奏で終了し、Bluetoothイヤホンの電源を切った。  サッパリした夜気を、鼻から思い切り吸い込み、両手を広げて伸びをする。 全身に滞っていた血が一斉に動き出すような快感の後、ハタ、と手を下ろし、イヤホンを外す。先ず聞こえてきたのは、公園の入り口を横切った原チャリの走行音。それが遠ざかると今度は、鈴虫の鳴き声、クスノキの葉擦れ、靴が砂利を踏んだ音、それらが順番に耳に届いた。そして、 「ひさしぶり」 飾り気のない関西弁。彼女の声が聞こえると、それら全ての音が一瞬だけ、俺の耳から遠退く。 水銀灯が、花壇を全体の半分だけ照らしている。
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