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「白井清音。お前が欲望の捌け口として使い、無責任に孕ませて、そしてゴミみたいに捨てた女。俺はその女にすら捨てられた子供だよ。お父さん──」
驚く暇も与えず繰り出された蹴りが風を切る音さえ聞こえた気がした。鈍い音と共に、ワンテンポ遅れて麻生さんの壮絶な叫び声が部屋中に轟く。
これは、復讐?この人はこの為に──悶絶する男を踏み付ける横顔が恐ろし過ぎて、俺は震えて何も出来なかった。
叫び声すら止んだ時に、漸く俺は弾かれる様に白井さんの腕にしがみつく事が出来た。
「白井さんっ……!」
手を緩めた白井さんの瞳が俺を捉える。その瞬間、耐え切れず涙が溢れた。
この人の心には何も写っていない事が、分かってしまったから。深い深い闇の底を覗き込む様なゾッとする程の虚しさに、俺はただ泣く事しか出来なかった。
大好きだった指先が優しく髪を撫で上げる。
「それと、あんたが無理矢理抱こうとしていたこいつだけど。これもあんたが捨てた、藤原弥生の息子だよ」
何を、言っているんだ。俺はこんな男知らない。だけど、そう言えば母親の事も何も知らない。これが、白井さんが俺の所に通ってくれていた理由?あんなうだつの上がらないチンピラの世話を焼いた理由なの?
混乱する俺から視線を離し、鋭い瞳が再び愕然とする男を捉える。
「ねえ、今どう言う気分?未成年買って、それが自分の息子だったってさ」
答える事すら出来ない麻生さんを見て、白井さんは乾いた笑いを一つ漏らしたきりだった。
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