第七回

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 後継ぎがいなければ藩は改易である。藩主は、次の男児が生まれるまでは、幕府に申し出ずに秘事を隠そうとしたのである。裏柳生は、その秘事を露にせんが為に奮闘した。  幼くして厳しい修行に挑んで十兵衞は右目を失ったが、その代償として新陰流の奥義に達した。更に、自身で創意工夫した二刀の技と、柳生の庄で学んだ忍びの体術を駆使して、十兵衞は藩士達と斬り結び、生き延びた。  だが、十兵衞の心には巨大な空洞が生じた。  己は何の為に人を斬るのか?  藩士達は命を懸けて十兵衞達・裏柳生に挑んできた。月代を剃りあげて武装し、全員が心を一つにして裏柳生に向かってきたその姿に、十兵衞は今でも感動を覚える。結局、その小藩は改易されてしまったが。  十兵衞は更に考える。  自分が命を懸けても自分の満足の為でしかない。  己の闘争本能を満たす為の戦い。敗れて死ぬのも悔いはない。だが、それでは満たされない。満たされたゆえに、新たな闘争を求めて旅を続けているのではないのか?……  いつしか夜が明けた。十兵衞は不眠で一つの面を彫り上げた。  それは未だいびつな面であった。更に手を入れて一つの面として完成させるのだが、完成した時は、十兵衞の正体と心を隠す面となるだろう。  即ち般若の面だ。
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