第八回

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 黒装束に身を包んだ裏柳生の刺客団であった。 (気取られるな) (あの屋敷には三厳様もいらっしゃる、だが討ち取って構わぬという仰せだ) (一真もおるはずだな?) (かまわぬ、片腕を失っては隠密など勤まらぬ)  藪の中で囁かれる声なき会話。霞達を亡き者にせんが為に、送り込まれた刺客団である。  率いるのは柳影七傑の一人、伊藤仙二郎だ。三尺二寸(約九十六センチメートル)の太刀を小枝のように振り回し、人間を大根のように両断する豪の者である。暗殺の密事にも長けた裏柳生の遣い手である。 (……行くぞ)  仙二郎の号令一下、藪の中から裏柳生の刺客団が姿を現した。仙二郎を入れて七人。霞の屋敷には才蔵や佐助、十兵衞や負傷中の一真を入れても十数人である。闇に乗じて討ち入れば勝てぬはずかないという布陣である。 (……む、待て)  仙二郎は足を止めた。刺客団もつられて足を止める。不意に周囲に霧が発生していた。  更に霧の中から次々と悲鳴が上がる。仙二郎には何が起きているのかわからない。夜空の月光も霧に遮られて、仙二郎の視界は白く霞んでいた。 「ギャ!」  また一人、悲鳴が上がった。今ので六人目の悲鳴ではなかったか? という事は、残ったのは仙二郎一人である。 「す、姿を見せろ!」     
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