第八回

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 柳生の庄で修行に励み、数で十倍する敵にも臆する事なく立ち向かっていく裏柳生。その精鋭たる仙二郎が激しい動揺を示していた。 「ぬわあっ!」  仙二郎は背に負った自慢の大刀を引き抜くと、霧を切り裂かんばかりに振り回した。無論、霧が斬れる訳はなかった。  仙二郎は霧の正体がわかりかけてきた。これは何かの香のようであった。ねっとりと体にまとわりつくような不可思議な霧。微かな匂いすら漂っている。霧に見えるが、これは香の燃える煙であった。 「こっちじゃ」  背後に老人の声を聞いて仙二郎は戦慄する。だが、それも一瞬である。 「うおおおっ!!」  仙二郎は獣のような雄叫びを上げて、振り返りざまに横に薙いだ。空を裂く凄まじい一刀である。仙二郎の執念の一刀であった。  だが、仙二郎の一刀は対手には届かなかった。 「惜しいのう」  またもや背後に老人の声を聞いて仙二郎は振り返る。その仙二郎の喉を短槍の鋭い穂先が貫いた。仙二郎は瞬時に絶命した。  ―――霧が晴れて夜空の月光が大地を照らした時、地には七人の死体が転がっていた。  かつて大阪の陣で名を馳せた忍びの中に霧隠の異名を持つ忍びがいた。今は才蔵と名乗る老人である。裏柳生の刺客団七人は才蔵一人に全滅させられてしまった。  いずこともなく現れた野犬の群れが、死体の側へと近づいていった。  翌日―――     
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