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不意に馬の足が遅くなってきた。ついに馬は走る事をやめた。何かに怯えたように、息荒く周囲を見回している。
「何事だ?」
伊助は馬上から周囲をうかがう。手綱を握らぬ右手が懐中に伸びた。伊助の手裏剣術は闇の中でも対手の気配を探り、必中させるほどである。その伊助の意識が、周囲の林の中に敵の気配を感じとったのだ。
「……そこだ!」
伊助は叫んで手裏剣を林の中へと放った。貫通力と殺傷力に優れた棒手裏剣である。
だが、林の中から飛来した白刃が伊助の手裏剣を弾き返した。鎖のついた鎌であった。
続いて鎌は生き物のように伊助に襲いかかり、その首を切り落とした。
「はっはっはっ! これが柳生の精鋭か、他愛もない!」
土蜘蛛の残虐な声が林の中にこだました。
ついに浅間山の猿狩りの日がやってきた。
動員された人数は二万人以上であったという。駿河の城下町は朝から騒がしく、浅間山の白猿達も何かを察して妙におとなしい。
十兵衞は、空が暗い内に霞の屋敷を抜けていた。裏柳生で用いられる濃緑色の忍び装束に身を包み、背には愛刀・三池典太、腰には愛用の小太刀を帯びて、風のように大地を駆けた。
―――忠長様を救う!
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