第八回

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 不意に馬の足が遅くなってきた。ついに馬は走る事をやめた。何かに怯えたように、息荒く周囲を見回している。 「何事だ?」  伊助は馬上から周囲をうかがう。手綱を握らぬ右手が懐中に伸びた。伊助の手裏剣術は闇の中でも対手の気配を探り、必中させるほどである。その伊助の意識が、周囲の林の中に敵の気配を感じとったのだ。 「……そこだ!」  伊助は叫んで手裏剣を林の中へと放った。貫通力と殺傷力に優れた棒手裏剣である。  だが、林の中から飛来した白刃が伊助の手裏剣を弾き返した。鎖のついた鎌であった。  続いて鎌は生き物のように伊助に襲いかかり、その首を切り落とした。 「はっはっはっ! これが柳生の精鋭か、他愛もない!」  土蜘蛛の残虐な声が林の中にこだました。  ついに浅間山の猿狩りの日がやってきた。  動員された人数は二万人以上であったという。駿河の城下町は朝から騒がしく、浅間山の白猿達も何かを察して妙におとなしい。  十兵衞は、空が暗い内に霞の屋敷を抜けていた。裏柳生で用いられる濃緑色の忍び装束に身を包み、背には愛刀・三池典太、腰には愛用の小太刀を帯びて、風のように大地を駆けた。  ―――忠長様を救う!     
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