第九回

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第九回

 霧が晴れてくると、陣内の無惨な様子が明らかになった。  斬り込んできた裏柳生の忍びに斬り捨てられた、忠長に仕える侍達の骸。  佐助と才蔵によって斬殺された、裏柳生の忍び達の骸。  合わせて三十体を越える屍が、血臭漂う陣内に転がっている。残った裏柳生の忍び達は、佐助らの思わぬ反撃に遭い引き上げたようだ。生き残った侍達の中には重傷を負って、うめいている者の姿もある。 「……無惨だな」  右手にこびりついた血を布で拭いながら、佐助は苦い顔をする。 「仕方あるまい、これが戦じゃ」  短槍を構えたまま才蔵老人は陣内を見回した。忠長と霞を押しやった陣幕の前では、楓が短刀を構えて緊張した面持ちで周囲に気を払っている。 「おい、姫様は?」  佐助が陣幕に近寄ろうとすると、楓が激しく首を振った。 「今入るのは野暮よ」  楓に言われて、佐助はきょとんとする。そんな表情が妙に若い。  陣幕の裏には忠長が乗ってきた輿があった。葵の紋の入った豪華な輿である。  その中に忠長と霞は避難していた。輿は時に激しく、時に微かに揺れていた。 「忠長様、お会いしとうございました……」  輿の中から響く霞の声は、消え入りそうにか細かった。     
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