第九回

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「許せ、そなたに会わせる顔がなかった……」  忠長の声には詫びと懺悔と悔恨と―――  そして愛がこもっていた。二人は輿の中で裸になり愛を囁きあっているのだった。  その輿から離れた陣内で佐助は苦笑していた。 「やれやれ、そういう事か……」 「いいじゃない別に。男と女なんだし」  楓は照れ臭そうに佐助に向かって微笑みかけた。佐助に敗北して、いや佐助の男に負けて裏柳生を裏切った楓は、この時初めて微笑を見せた。  毒婦と呼ばれた女忍者とは思えぬほど穏やかな笑みである。陣内には、まだ屍が無数に転がり、浅間山の山中からは鉄砲の銃声や獣の悲鳴が聞こえてきた。 「老体には応えたわい……」  才蔵老人が疲れた声を出した。佐助も楓も苦笑した。陣内では侍達が骸の後始末に取りかかり始めていた。  この時、誰もが油断していた。  佐助ですら、陣の周囲の林に注意を払っていなかった。  突如として林の中から幾条かの光が飛来した。それは手裏剣の光であった。  その手裏剣が佐助の太股に突き刺さった。 「うう!?」  突然の痛みに驚きながら、佐助は林に視線を移した。林の中を猿に似た影が動いている。林から放たれた手裏剣は、その影が放ったのだった。     
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