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「許せ、そなたに会わせる顔がなかった……」
忠長の声には詫びと懺悔と悔恨と―――
そして愛がこもっていた。二人は輿の中で裸になり愛を囁きあっているのだった。
その輿から離れた陣内で佐助は苦笑していた。
「やれやれ、そういう事か……」
「いいじゃない別に。男と女なんだし」
楓は照れ臭そうに佐助に向かって微笑みかけた。佐助に敗北して、いや佐助の男に負けて裏柳生を裏切った楓は、この時初めて微笑を見せた。
毒婦と呼ばれた女忍者とは思えぬほど穏やかな笑みである。陣内には、まだ屍が無数に転がり、浅間山の山中からは鉄砲の銃声や獣の悲鳴が聞こえてきた。
「老体には応えたわい……」
才蔵老人が疲れた声を出した。佐助も楓も苦笑した。陣内では侍達が骸の後始末に取りかかり始めていた。
この時、誰もが油断していた。
佐助ですら、陣の周囲の林に注意を払っていなかった。
突如として林の中から幾条かの光が飛来した。それは手裏剣の光であった。
その手裏剣が佐助の太股に突き刺さった。
「うう!?」
突然の痛みに驚きながら、佐助は林に視線を移した。林の中を猿に似た影が動いている。林から放たれた手裏剣は、その影が放ったのだった。
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