第九回

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 林の中から一つの影が飛び出した。影は地面に着地すると同時に、才蔵向かって突っ走った。四足獣の疾走のごとき速さである。  佐助の視界の中で才蔵老人の小柄な体が宙に舞った。林から飛び出した影の体当たりを受けたのだ。宙に飛んだ才蔵が勢いよく楓に激突する。くぐもった声を出して、才蔵も楓も失神したようだ。  太股に走る激痛にこらえながら、佐助はその影をにらみ据えた。  細く長い体つきに、右手は肘から下が鎖鎌を取り付けた義手になっている。左手には鉤爪のついた籠手を装着しており、黒頭巾からのぞく隻眼は悪鬼のごとく憎悪の光を放っている。 「てめえは……!」  佐助は叫ぶが体が動かない。 「忠長様の御命…… もらいうける!」  十兵衞によって撃退され、しばらく行方知れずとなっていた裏柳生の忍び―――  土蜘蛛であった。  すでに土蜘蛛は裏柳生ではない。  殺戮が全てという一個の獣に成り果てていた。  忠長の陣内は、たった一人の襲撃者によって騒然となった。 「おのれ化け物!」  忠長に仕える侍達が次々と土蜘蛛に斬りかかっていく。  ひゅ  土蜘蛛の右手が動いた。鎖鎌の刃が陽光に反射して中空に光の軌跡を描く。まるで空を飛ぶ生き物のように鎖鎌は侍達に襲いかかり、首筋を裂き、刀を握った手首を切り落とした。     
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