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瞬間に生じた惨劇に侍達も佐助も動けない。土蜘蛛の鎖鎌の一手で数人の侍が、瞬く間に血祭りに上げられたのだ。
「他愛もない……」
土蜘蛛は楽しげに呟いた。佐助は土蜘蛛をにらみ据えるが動けない。右大腿部に突き刺さった四方手裏剣は深く肉に食い込み、佐助の身軽な動きを殺してしまっていた。
「何しに来やがった、てめえ!」
佐助の怒声に土蜘蛛は動じた風もない。
「さっきも言ったであろう、忠長様の御命もらいうけるとな」
頭巾からのぞく土蜘蛛の隻眼が楽しげに笑っている。
「あの美しい女も貴様も十兵衞も、このわしが殺しに来たのよ」
土蜘蛛が一歩一歩、佐助に間合いを詰めてくる。
「快感だ! お主らは狩りの獲物、狩るのはわしだ! さあ、悲鳴を上げて逃げ惑うがよい!」
土蜘蛛の様子は常軌を逸していた。十兵衞との戦いに負けた失意から、土蜘蛛の精神は狂いだしたのだ。
「……させん!」
佐助はかろうじて一歩を踏み出した。足元に流れ落ちた血が水溜まりのようになっている。土蜘蛛の手裏剣は想像以上の深手であった。
「その意気や良し、褒めてやる!」
土蜘蛛が鎖鎌を大きく旋回させた。佐助にとどめを放たんとする動きだ。
その時、陣内に疾風のごとく黒い影が踊り出た。
土蜘蛛が鎖鎌を佐助に向かって放つ。
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