第九回

4/10
前へ
/99ページ
次へ
 瞬間に生じた惨劇に侍達も佐助も動けない。土蜘蛛の鎖鎌の一手で数人の侍が、瞬く間に血祭りに上げられたのだ。 「他愛もない……」  土蜘蛛は楽しげに呟いた。佐助は土蜘蛛をにらみ据えるが動けない。右大腿部に突き刺さった四方手裏剣は深く肉に食い込み、佐助の身軽な動きを殺してしまっていた。 「何しに来やがった、てめえ!」  佐助の怒声に土蜘蛛は動じた風もない。 「さっきも言ったであろう、忠長様の御命もらいうけるとな」  頭巾からのぞく土蜘蛛の隻眼が楽しげに笑っている。 「あの美しい女も貴様も十兵衞も、このわしが殺しに来たのよ」  土蜘蛛が一歩一歩、佐助に間合いを詰めてくる。 「快感だ! お主らは狩りの獲物、狩るのはわしだ! さあ、悲鳴を上げて逃げ惑うがよい!」  土蜘蛛の様子は常軌を逸していた。十兵衞との戦いに負けた失意から、土蜘蛛の精神は狂いだしたのだ。 「……させん!」  佐助はかろうじて一歩を踏み出した。足元に流れ落ちた血が水溜まりのようになっている。土蜘蛛の手裏剣は想像以上の深手であった。 「その意気や良し、褒めてやる!」  土蜘蛛が鎖鎌を大きく旋回させた。佐助にとどめを放たんとする動きだ。  その時、陣内に疾風のごとく黒い影が踊り出た。  土蜘蛛が鎖鎌を佐助に向かって放つ。     
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加