第九回

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 黒い影が佐助の前に出た。次の瞬間、高い金属音と共に鎖鎌が宙に舞った。 「何!」  土蜘蛛が叫ぶ。 「十兵衞!」  佐助も叫ぶ。佐助の前に一人の忍び装束の男が立っている。左手には小太刀を握っていた。土蜘蛛の鎖鎌を払ったのは小太刀の妙手によってであった。 「十兵衞!」  土蜘蛛は黒い鬼の面をつけた男に殺気を放つ。  鬼の面をつけていたのは十兵衛だ。彼は左手の小太刀を土蜘蛛に向かって油断なく突きつけていた。 「遅いぞ十兵衛、何をしていた!」  佐助は必死の形相で叫ぶ。 「その化け物を追っていたが、追いつけなんだわ……」  鬼の面の奥から、自嘲気味の声が響いた。 「十兵衛!」  土蜘蛛が鎖鎌を振り回す。横薙ぎに襲い来る鎖鎌の刃を十兵衛は小太刀の一閃ではじき返した。  そして十兵衛は右手で背に負った愛刀三池典太を抜くと同時に踏みこんだ。 「おおお!」  十兵衛の二刀が空を裂く。 「くわっ!」  土蜘蛛は宙に飛んで十兵衛の二刀を避けた。  土蜘蛛と十兵衛は互いに雄叫びを上げながら切り結ぶ。  十兵衛の二刀は疾風のように空を裂く。  土蜘蛛の鎖鎌が十兵衛を襲う。  互いに間合いに踏みこむが、容易に決着しない。  互いの刃は相手に届かない。  やがて、どちらからともなく両者は動きを止めて真っ向から対峙した。     
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