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だが、すでに彼らは紀州において一大勢力を築きつつあったのだ。助九郎一人の剣では太刀打ちできる存在ではなかった。
「ふふ、冥土の土産に聞くがよい」
全身を甲冑に包んだ男が一人、一団の中から抜け出した。その男の発する殺気に助九郎は身を固くする。
「我が名は風魔。四代目・風魔小太郎」
「風魔だと!?」
助九郎の知る風魔忍者は、半世紀 近くも前に江戸において全滅したのではなかったか。
「その先を知る必要はない……」
小太郎と名乗った男が腰の大刀を引き抜いた。四尺あまりもある大刀である。その刀身が、月光に反射してギラギラと輝いた。
助九郎は死を覚悟した。そして折れた刀を手にして小太郎へと踏み込もうとした瞬間、悲鳴が聞こえた。
「ぎゃ!」
「うあ!」
小太郎の背後で叫び声が続いて起こる。小太郎の配下の者達が、次々と血煙を上げて地に倒れていくのだ。
「おお!」
助九郎は歓喜の声を上げた。
「何奴!?」
小太郎は標的を変えて、配下の一団へと目を向けた。
一団の中心では黒い旋風が起きていた。
両手に二刀を提げた一人の忍者が、瞬く間に数人を斬り捨てていたのだ。
忍びの者は小太郎へと向き直った。
その顔には黒い鬼の面がある。
「何者だ?」
小太郎は再度、問う。鬼の面をつけた忍びの並々ならぬ剣の腕に感服したからだ。どこか楽しげである。
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