序章

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 いつか誰かが言ったんだ。雪は寂しい子だねって。愛のないセックスなんて虚しいだけだよって。  愛のないセックスが虚しいだなんて、誰が決めた?愛のあるセックスの方が俺にとっては苦痛なだけだ。ほら、今日もその〝虚しいセックス〟で、満たされている俺がいる。  煌々と灯る蛍光灯の下、服を脱ぐ事さえ忘れ、俺は打ち付けられる怒りを貪っていた。 「雪、何でお前は……!」  がくがくと腰を震わせる男はそればっかり。バカの一つ覚えみたいにそう言って、殴る事が出来ない代わりに怒りを欲望としてぶつけているのだ。  嫉妬に狂い我を忘れたそんな男の下で、乱暴に組み敷かれた俺は痛みにも似た快感を貪る。熱り立った凶器が内蔵を抉る感覚に何もかもが真っ白になって行く。延々と続く手加減のない突き上げに、最早出るものもない。  幾度も幾度も欲望を注ぎ込み、漸く空が茜色に染まる頃、男は満足したのか、穿った杭をゆっくりと引き抜いた。ずるりと内壁が擦り上げられ、また俺は小さく痙攣した。長い時間に及んだ行為に疲れ果て、くたっとベッドに身体を投げる俺を、男の腕が乱暴に抱き寄せる。 「雪……!酷い事してごめん、でも僕、雪を愛しているんだ、分かるだろう?」  せっかく気持ち良く終わったのに、その言葉で一気に頭が冷え切って行くのを感じた。  嗚呼、最悪。
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