315人が本棚に入れています
本棚に追加
「……俺の事を、愛しているって?」
重い身体を無理矢理に起こして男に視線を投げると、男の癖に情けなく潤んだ瞳がぶつかった。
「愛しているよ、雪。誰の目にも触れないように閉じ込めておきたい。縛り付けて、僕だけの物にしたい。なのに……どうしてお前は!」
ここにくる前、他の男と一発かまして来た事を言っているらしい。態とらしく内腿にキスマークを付けさせたのだから、気付いて当然なのだけれど。
こんな風に嫉妬に狂った暴力的なセックスは好きだ。頭の中がグチャグチャになって、何も考えられないから。俺にとっては痛みすら極上の快感なのだ。
喉の奥から込み上げる笑いを噛み殺し、ぞんざいにベッドを離れる。
「雪!?どこに行くんだ!」
恥ずかしげもなく大声で俺を呼ぶ声はいつ聞いても鬱陶しい物だ。一体何度、この滑稽な悲鳴を背中で聞いてきた事だろう。
部屋を出ようとする俺を引き止めようと、慌ててスラックスを穿こうとしたものだから、男は派手にコケた。バカ過ぎて思わず噛み締めた筈の笑いが吹き出してしまった。本当、頭悪過ぎ。だけど笑わせてくれたお礼に、男が好きだった笑顔を向けてやる。
「あんたとのセックス、割と好きだったよ」
重い玄関の扉が静かに閉まる音が、遥か遠くで聞こえた。
閉じ込めたい?縛り付けておきたい?アホ臭い。捕まえられるものなら捕まえてみな。俺は誰の物にもならないし、媚びるなんて真っ平ごめんだ。
マンションを少し離れ、大きく伸びをしたら、肺に吸い込んだ冷たい冬の空気がピリッと染みた。それにしても我慢してシャワーだけでも浴びれば良かった。気持ちが悪い。あの男の執拗な行為で全身がべたべたするし、中に出された物がまだ残っている。早く帰ってシャワーを浴びたい。その一心で、俺は夜の帳が落ち始めた住宅街を急いで歩いた。
最初のコメントを投稿しよう!