序章

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 漸く自宅である小綺麗なマンションの扉を開くと直ぐに、何時も通り玄関に走る足音が聞こえる。 「雪、おかえり!」  犬みたいに走り寄って来た男は、苦しい程に強く俺を抱き締めた。少し乾燥した唇が、待ち切れず首筋を這う。 「ね、待って、母さんは?」  俺の質問なんかそっちのけで、男は全身を弄っている。さっき迄別の男を呑み込んで悦んでいた身体は、そんな小さな刺激をも貪欲に感じ始めていた。身体が小さく反応する度に、意思に反して唇からはふしだらな熱い吐息が漏れる。 「雪、また誰かに?」  耳元で響いた低い声に全身が一気に粟立つ。  身体を離して見詰めると、眼鏡の奥の瞳が怒りにゆらりと煌めいていた。薄いフレームの上品な眼鏡がよく似合う。どっかの大学の教授らしいけど、まさしく知的な人だ。  唇に触れるだけのキスをして、肩に頭を預ける。何時ものようにスラックスに手を伸ばすと既に硬くなり始めていた。真面目な先生も所詮は男だ。俺の身体から香る別の男の匂いに反応したのだろう。そう思うと自然と口元が緩む。 「ごめんなさい、でも、つい寂しくって……俺達は戸籍上は親子だし、義父さんも、分かるでしょう?本当は愛し合っちゃいけないの」  禁断の味を思い出すや、義父の瞳が切なげに揺れた。 「もう、何も言うな」  乱暴に唇が塞がれ、性急に手が服の中へと滑り込む。骨張った男の指先は腰のラインを掠め、背筋の窪みをなぞり、別の男に弄ばれ腫れた蕾の周囲を念入りに擽る。俺は態とらしく苦し気に鼻から甘い吐息交じりの嬌声を上げ、執拗な愛撫に身を任せた。
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