序章

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 この男は三ヶ月前に母親の再婚相手としてこの家に来た。以来俺は母親の目を盗んではこの男に抱かれている。若くて知的で人気者の癖に、とんだ大学教授だ。  僅か三ヶ月で知り尽くした指先が、遂には我慢出来ず敏感な箇所ばかりを責め立てる。 「やっ、義父さんっ……!」  その言葉で一瞬、男の手が止まった。この男は簡単だ。甘い喘ぎの隙間にそう呼んでやれば、一瞬ビクリと身体を強張らせる。自分の妻の連れ子、しかも未成年の少年を抱いているなんて、最高にイケない性癖だ。その背徳心を煽ってやればこいつは俺の手の中で踊るだけ。  この男の中で俺は、父親がいなくて、母親にネグレクトを受ける可哀想な美少年。俺はただそれを忠実に演じてあげる。溺れやすいように、優しく手を引いてあげる。甘い声で囁いて、破滅の暗い喜びを与えてあげるんだ。  堪え性のない男は耐え切れず、俺を玄関の壁に抑え付け背後から激しく熱り立つペニスを突き入れた。既に解された秘孔は直ぐに脈打つ肉杭を呑み込み、別の男の影を残したままに快感に打ち震える。あくまでも優しい律動は、冷静になった筈の快楽への欲求を大いに刺激した。だから飛び切り可愛い啼き声を上げてベッドに誘い、それでも俺を労わるような痛々しいセックスを愉しんだ。  義父の吐き出した欲望は、受け止めきれずに溢れ出る。勿論それは義父の物ではないのかもしれない。実際、義父が吐精する前にも太腿を伝った感覚はあった。  この三ヵ月。抱かれる度にこの男の耳元で愛を囁いた。男もそれに答えてくれた。それなのに、俺は他の男に抱かれる。自分が今支配している筈の物が知らない所で誰かに身体を許している。それが男を暗い嫉妬の闇に溺れさせる。手に入れている筈なのに、満たされない焦燥が心を蝕んで行く。痺れた頭の中で、俺は小さく笑った。
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