第五章 変化の兆し

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 全員をすし詰め状態に収容仕切ると、漸くお楽しみ会が始まった。入って来た初老の男は、深く頭を下げた後にぐるりと受刑者の顔を見回す。 「いやあ暑いですね」  言った通り、落語家は酷い汗っかきなのか、ポタポタと垂れ落ちそうな程に汗をかいている。 「いや、なに、ここに来る途中にね、腰の曲がったお婆さんが深々と頭を下げるもんでね、はて?アタシも年を取って貫禄でも出たかなと、シミジミ感じた訳ですよ。それで何気無くふと自分の左手に目を向けるとどうだい。ここの高い塀と、偉そうに仁王立ちしている看守さん。そしてアタシはこの通り、ここの悪人共と同じ丸坊主。こりゃ敵わんってなもんで、慌てて駆け付けたもんだからほら、この汗」  てかてかと煌めくまあるい頭部にパチンと扇子を打って、にんまりと口端を持ち上げると、娯楽の無い刑務所暮らしをしている受刑者はそんなどうしようもない話しでもドッと笑った。  やはり仕事にしているだけあって、彼はその後も鮮やかに笑いを取って行く。悪人共と言われても笑えるのは、それが事実だからか、この男の手腕なのか。  そんなマクラで会場が温まった所で、落語家はさて、と前置きをし、一度背筋をピンと伸ばして見せる。パシンと扇子を打ち付ける軽快な音は、落語に興味のない俺でも不思議とその世界へとすんなり導いてくれた。 「(かすがい)ってのは、これはまあご存知の方もおられるかもしれませんが、木材と木材をこう、繋ぎ合わせるコの字型の道具みたいなもんですな。トンカチで打ってね」  再び扇子を打つと、ふっと落語家の表情が変わった。
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