序章

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 そんな愛の確認作業を終えれば、何時も通りのピロートークが始まる。 「ごめんね、いつもお前にばかり辛い思いをさせて。……雪?眠ってしまったのかい?」  少し掠れた声が小さく囁いて、汗で額に張り付いた髪を優しく梳いて行く。俺は寝たふりを決め込んで、今か今かと〝その言葉〟を待っていた。俺の読みでは今日辺り、聞けるはずなのだ。  義父は何度も何度も寝ている俺の唇を犯し、まだ汗の滲む薄い胸を舌先で撫でる。そして素肌の感触を確かめるようにゆっくりと指を這わせながら、遂に待ち兼ねた言葉を吐いた。 「愛しているよ、雪。……ここから二人で何処か遠くへ逃げたら、俺達は幸せになれるのかな」  あまりにも計画通りで、寝たふりをしていたのにも関わらずうっかり吹き出してしまいそうになった。これで三ヶ月、胸糞の悪い愛の言葉を我慢していた甲斐があったってもんだ。  ねえ、母さん。また俺の勝ちみたいだよ?これで俺の何連勝目だろうね。あんたにもう勝ち目なんかないんじゃない?このゲームいつ迄続ける気?あんたか俺が死ぬ迄?ならせいぜいこの世に俺を産んだ事を心底後悔しながら死んで行けば良い。俺はそれを見ながら、涙が出る位笑ってやるよ。  これは俺の復讐。愛と言う不確かで胸糞の悪い感情崇拝主義のこの世に生まれて来てはいけなかった欠陥品の、最初で最後の悪足掻きだ────。
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