第一章 小悪魔の憂鬱

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 母さんが義父と別れ一週間。俺は今日も男に抱かれ、束の間の安らぎを得ていた。 「え、またあのゲームやっていたの?」 「うん。当然俺の勝ちだったよ」  キングサイズのベッドの中、得意げに言った俺を見て、驚愕を絵に書いていた顔は呆れにも似た笑みに崩れた。部屋に漂う煙草の匂いが、さっき迄の熱い情事の残り香を消して行く。  淫らな裸身を飾る完成された筋肉の隆起。その身体を蝕むように刻まれた禍々しい絵面。そのアンバランスさがこんな俺でもうっとりする程に美しくて思わず背中の刺青に指を這わせると、全てを見下した様な冷たい瞳が寝転ぶ俺を捉えた。白いシーツに沈むしなやかな指先に自らの指を絡めて、擽るように唇を這わせる。 「……雪は本当に誘い上手だね。その癖に自分が乗り気じゃなきゃ知らん顔。可愛げのない猫を飼っている気分だよ」 「乗り気じゃない事なんてある?」 「あるある」  ふふっと笑うと、男はさり気なく指を解いて俺の額に軽く唇を落とした。  この男は半年前に道端で引っ掛けた男。どうやらこの辺の繁華街を取り仕切る暴力団の組員らしい。まるで精巧な細工品のように冷たさすら感じる程端正な顔に、好みの身体。まるで動くマネキン人形みたいな隙の無い美男子の癖に、纏う物は人間らしい暗い色気。何より、この男は胸糞の悪い甘い言葉なんか吐きはしない。俺と同じ、愛を毛嫌いしている人種だと初めて抱かれた時に気付いた。だから今迄で一番長続きしているし、これからも多分何かない限り関係は切れないだろう。
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