序章

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『遺書────。  六畳一間のお城から、僕は出た事がありませんでした。電気の止まった古びたアパート。締め切ったカーテンの隙間から漏れる陽光が、抱き合って眠る僕達の背中に落ちる。  窓の外を走る小学生の高い笑い声、光のカーテン、黴の匂い、女物の香水の香り。扉を叩く音が昼夜を問わず耳を打つ。  借金取りに市の職員。たまには警察なんかも色褪せた薄い扉に拳を打ち付ける。野太い声、優しい声、そのどれも、僕達を震わせる。  教えて下さい。僕達の罪は、何だったのでしょうか。あなた達の振りかざした正義は一体、誰の為の物だったのでしょう。法律、秩序、常識を守る事は何時も、誰かを救う訳じゃない。それを知りながらも、世界の裏側で震える僕達を、眩い太陽の下に引き摺り出そうとしたのでしょうか。
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