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そんな冷めた珈琲を味わっていると、思いの外早く山室が広いホテルのレストランに姿を見せた。最近はこう言う事が多いから大方近くに居たんだろう。どかりと向かいの椅子に腰を下ろすや、山室は元々の強面を更に厳しく歪めた。
「また珈琲だけですか?最近ちゃんと飯食ってます?」
憎まれても有り余る程の事をして来た俺の心配か。
「……相変わらずのお人好しだな」
思わず鼻で笑った俺に鋭い睨みが向けられる。
「茶化してる場合じゃ無いですよ。最近痩せたんじゃないですか?」
「年を取ったのかな」
「俺より若いじゃないですか」
あからさまに嫌な顔を見せながらも、山室は近付いて来た給仕に自分の分の珈琲と共に飲み終えた俺の分も頼んでくれた。山室は野生的な男っぽい見た目に反してこう言うさり気ない気遣いの上手い男だ。全く憎たらしい。
直ぐに運ばれて来た珈琲に口を付け一息付いたのを見計らい、俺は山室一人ここに呼んだ理由を言葉に出した。
「純平の事なんだけどさ」
散々振り回されてる山室は、その名前だけでピクリと眉を動かした。
「分かると思うけどこんな事が続くとこっちも仕事にならない。だからさ、悪いけど俺がいない間面倒見てよ」
「いや、慎太郎も子供生まれたばかりですよ?俺だって今は大事な時期だからあんまり家を空けたくない」
そんな事は重々承知だ。今慎太郎も山室も自分の家庭を大切にしたい時期だ。山室に関しては、少しでも長く最近養子縁組した元ボーイである雪の側にいてやりたいんだろう。
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